脳挫傷で亡くなった姉の体に最期の時まで点滴されていた白いボトル...

交通事故から16日間、姉の体に最期の時まで点滴され続けていた鎮静剤“プロポフォール” ICUに入った時から目に留まっていた。なぜなら、娘も全身麻酔手術の麻酔薬として使用したであろう、この、まるで牛乳のような薬を自分の目で見たのが初めてだったから。
『これがプロポフォールか...』と見つめた。

記憶に新しいのは、2014年に東京女子医科大学病院のICUで、人工呼吸中の男児が暴れないよう鎮静剤プロポフォールを成人の2.7倍投与され、3日後に2歳男児が急性循環不全で亡くなった医療事故です。※ 集中治療における人工呼吸中の鎮静においては小児等には使用しない禁忌薬。
その後の調べで、6年間で15歳未満の63名の患者に対しても使用していたことがわかった。死亡11例中8例で50日以上、5例(?)で90日以上の長期投与が行われていた。
こういった安全域を超える使用が例外的な使用法であるという認識が診療スタッフに存在していたかは疑問という調査結果が出ています。
● 外部評価委員会による検討結果 pdf

そして、2009年のマイケル・ジャクソンの死因も“急性プロポフォール中毒”でした。
そんな、いわくつきのプロポフォール。最大の利点は効果発現と覚醒が早いことです。

事故9日目以降はICUの面会時間も解かれ、姉の傍に交代でつくことができたが、必ず一度は看護師が新しい瓶と交換していった。24時間だと何本点滴していたことになるんだろ...
頭の管を取り除いたあたりから点滴もほとんど外されたが、プロポフォールと筋弛緩剤が外されることはなかった。

素人の素朴な疑問だけど、プロポフォールを止めるとどうなるんだろう。
側頭葉から前頭葉にかけて損傷がある場合、意識が戻ると感情が高ぶったり手におえない状況が起きるのか?...でも、それは見方を変えれば生きている証というか... 逆に鎮静剤をずっと投与したままで意識の回復なんてあるのかなぁ。反応したくても出来ないんじゃないか。

なおかつ、もう血圧が20台になり終末期の状況にあってもプロポフォールを外せない理由てなんなのだろう... 外してしまうと長く生きてしまうから?とさえ思ってしまう。
だとしたら、何だか切ない。。

いったいプロポフォールとは どんな薬なのか...

● 麻酔・鎮静プロポフォールの詳しい説明書(日医工 pdf)
これは一部を抜粋したものですが、とても長い説明書きがあります。

姉の場合、昇圧剤を使って血圧は保たれていましたが、減圧開頭術を見送って昇圧剤の使用を止めてから、事故10日目には50台、11日目には40台から20台まで落ちていきました。その後は亡くなるまで30台~20台で低空飛行を続けているような感じでした。また、事故12日目の夜から心電図の波形にも時折り変化が見られ、亡くなる数日前には高カリウム血症の波形も現れ、尿も出なくなり、事故16日目の夜に亡くなりました。


前回の記事にも書いたように、交通事故によるダメージは頭だけでした。内臓は健康そのものでした。呼吸中枢のある脳幹のダメージも脳ヘルニアの所見も入院当初にはなく、主治医からは『2週間後から薬を減らしていって様子を見ます。自発呼吸はあると思います。』という言葉もあったくらいです。しかし、その後の頭蓋内圧亢進に対して積極的な治療は行われず脳圧が上昇したため、おそらく脳の二次損傷は起きていたと思います。

亡くなる前日の朝、ICUには私だけという場面があり主治医と少しお話をした。「すでに脳死の状態なんでしょうか...」『脳死の判定には様々な検査が必要なので何とも言えません...』

姉の心拍数は、亡くなる日付に替わった午前2時半頃に一瞬40に下がったものの、その後すぐに持ち直し80台を維持し続けました。わたし個人の想像では脳死には至っていなかったと思っています。最後の最後まで姉の生きていたいという意思と、健康な体が頑張っていたのだと思います。

突然の交通事故による脳挫傷で家族が判断できること

頭部外傷を受けると刻一刻と脳に変化が起きている。出血であったり、脳圧の上昇であったり、それらにより脳の損傷が進んでいく。一番重要なのが脳圧のコントロールのような気がします。姉は、その脳圧のコントロールができていなかった。とはいえ、早い段階で脳圧のコントロールがうまくいき、脳の損傷が最小限にとどまったとしても、その後、意識が回復するのか、回復したとしても高次脳機能障害との闘いが待っていたはずです。

両側減圧開頭術を見送った直後、主治医は、それまで姉の夫と子ども2人にしか見せていなかったCT画像を私たち姉妹にも見せてくださった。その中で...『息子さんが後遺症のことを良く把握されていて、最初の段階で"母はそういう状態で生きることを望んではいない。”という言葉がありました。』と説明を受けました。
最初の段階でか... 全ては、この言葉があってのことなのだと理解しました。姉の息子夫婦は医療従事者でした。

長年、娘の病と向き合うなかで、姉とこんな会話をしたことがあります。『もし、わたし自身が倒れたりした場合は、家族に助けないで...と言ってある。それまでの自分じゃなくなって家族に負担をかけて生きるのは嫌だから...』と、わたしが言うと...
『そんなこと... 家族がほっとくわけないでしょ!あなたがそうでも、家族なんだから助けるに決まってるでしょ... 』と、姉は言っていました。ただ、植物状態で生きること、高次脳機能障害で家族に負担をかけながら生きることが本当はどういうことなのかまでは想像できていなかったと思います。
患者本人の生前の意思ではなく、家族の思惑であっても尊重されるのだと理解しました。

医師の見解を聞いたうえで、を助けてほしい場合は主治医にそのことを強く訴えた方がいい
● 生前の患者が高次脳機能障害等の重い後遺症を負って生きることを望んでいなかった場合はその旨を伝える。
● 生前の患者の意思はわからないが、家族としての希望を伝える。

※ 自分の救命について...日常生活のなかで家族に伝えておくことが望ましいと思います。
※ 大切な人の救命について...高次脳機能障害等の重い後遺症を負った家族に自分が寄り添える人間であるかどうか...日常生活のなかで自分の意識を確認しておくことも必要...覚悟がなければ助かっても患者本人が辛いだけ。

成体哺乳類の中枢神経系は損傷を受けると二度と再生しない...ところが

損傷した脳細胞が再生することはないとずっと言われてきました。(損傷した領域の機能を別の神経回路が補い、ある程度の回復は見込めます)ところが、姉が亡くなった22日後、それを覆すかもしれないニュースが飛び込んできました。
脳損傷患者に希望の光?サンバイオ森敬太社長が語る「SB623」の期待と課題

事故の後遺症によって言葉がうまく出ない、手足が動かないなど、身体の機能が失われた60人の臨床試験を実施したところ、約4割の患者に大幅な改善がみられた。厚生労働省が“有効性が見込める革新的な医薬品”として優先的に審査する予定となっており、認可が出れば来年にも世界に先駆けて日本で発売される可能性があります。※下記追記参照

夢のようなニュースではあるが...にわかには信じがたい。プラセボを試せないというのも気になるところです。日本では、すでに5つの大学病院で治験が行われている。(東京大学・大阪大学・岡山大学・・・)
治験に関する記事:外傷性脳損傷患者の機能回復へ 再生医療で治験実施 神戸新聞

IPS細胞のニュースが世間を騒がせて以来、再生医療が現実のものとなりつつある。
娘の病をとおしてネット上で多くの患者さんの免疫細胞療法の経過をみてきました。2人ほど確実に効果が現れている人もいますが、一方で大金を出して亡くなる人も多くいるのが現状です。再生医療の実情はどうなのでしょうか...
いずれにしても、生きていればこそ...ということになってしまいます。

今回、姉の交通事故による脳挫傷という突然の出来事に『どんな治療が正しいのか...どうあるべきなのか...』短い期間で必死に調べました。いちばん信憑性があるのが実体験に基づくご家族の記録でした。辛い経験ではありますが、実体験のひとつとして正しく記録に残しておきたいと思います。

✅ 2019.12.13追記:サンバイオと大日本住友製薬のニュースリリース
北米での慢性期脳梗塞を対象とした再生細胞薬「SB623」の2014年に締結した共同開発及びライセンス契約を解消することで合意した。サンバイオは今後もSB623の開発を継続する。
※外傷性脳損傷向け承認申請の予定時期を1年遅らせ2021年1月期中にする。(生産体制強化のため)日経記事

● 家族が交通事故にあって外傷性脳損傷(脳挫傷)を負ったときに参考になる記事
■ 大脳皮質のおはなし
■ 人工呼吸中の鎮静のためのガイドライン
■ 両側減圧大開頭術が奏功した重症頭部外傷の一例
■ 内減圧術が有効であった小児重症頭部外傷の1例
■ 慈恵ICU勉強会
■ 植物状態から甦って「コンセンセイ コンニチハ」日本救急医学会
■ あゆみ【入院編】母の記録より